第九の手記

「私の手は、きっと誰かを生かす手だろうと、信じていたのに。」

生物学実験でマウスの解剖をしました。尊き白き命は、私の手の中でゆっくりと滲んでそして、クロロホルムに溶けました。私は必死になって彼の命の方舟を、尊き法衣を、ただただ隈なく見るよう努めるばかりでした。

職業の貴賎を論じる気は毛頭ありません。また命を扱う傲慢さに立ち止まるほど、私はできた人間ではありません。ただ、人に悪魔が宿ったとしたならそれは、倫理を無くした科学者だろうと思うのです。